暗く自然光のない洞窟内部においては写真を撮る場合、ストロボフラッシュやフラッシュバルブなどの人工光源を必要とする。通常、ストロボ撮影といえばカメラに付属、あるいは取り付けられた一つのストロボからの光で撮影することをイメージするだろう。記念写真等では、これで充分であるが、しかしそうした写真ではカメラから数m離れた被写体を平面的に写すだけであり、立体的な奥行き感を出すことは難しい。洞窟で立体感を出すため、あるいは大きな空間で充分な明るさを得るためにあ、複数のストロボを使わなければならない。複数のストロボを使用するには3つの手段がある。
A すべてのストロボをケーブルでカメラと接続する
B 三脚を立てバルブでシャッターが開放している間にストロボを各々人の手で発光させる
C スレーブユニットを使う。
Aの方法は、カメラ本体の機能次第であるけども、すべてのストロボの発光量をコントロールすることができ、露出のことを考える必要が無い。しかし、カメラ本体から遠く離れてストロボを使用することは難しい。せいぜい、10m未満の距離でしか使用できない。また接続ケーブルの取り扱いも厄介である。
Bの方法は、非常に便利な方法であるものの、ストロボの台数だけ人を必要とするため、人的資源に余裕のある際にしか使えない。また自然光が一部入るような洞口や人の動きがあるような場合では、うまくいかないだろう。
Cの方法は、遠く離れた場所でも人がいなくとも連動発光させることができるし、三脚でカメラを固定しなくても良いので、スピーディに撮影を行うことができる。
スレーブユニットという写真撮影に使う道具がある。洞窟写真を撮る際には必須といっても良いものである。これは、マスターのストロボフラッシュに従属(スレーブ)するストロボをコントロールするユニットだ。このユニットはストロボと接続して使うが、他のストロボの閃光発光を光センサーで受光すると、瞬間的に接続されたストロボを光らせるものである。
じっくりと写真を撮る場合は、Bの手法を用いることが多いのであるが、層条件の良い場合ばかりではないため、私はCの手法をとることのほうが多い。
このスレーブユニットは大きなカメラ店に行けばたいてい2千~4千円ぐらいで置いてある。しかし、日本で市販されているこれらのスレーブユニットは、他のストロボからの光を起電力として動作するため、マスターとなるストロボからの直射の光を10-30m以内の距離で受けないと動作しないのである。これらスレーブユニットは室内での複数のストロボを使用した撮影に使うことを想定しているようで、洞窟の広い空間で使用すると反応したりしなかったりと、非常にストレスを感じるし、そもそも思うようにストロボを配置できないのだ。予断であるが、写真の右側のナショナル製のスレーブユニット。受光部を回転させることができるので、ストロボの向きを自由に設定できると好んで使っていたのだが、良く壊れる。これまでに4つほど購入したが、現在生き残っているのは1つだけである。また他のスレーブユニットにしても可動部分がないにも関わらず、やはり良く壊れていた。
さて、反応を良くするためには、受光した光による起電力ではなく、内部に電池を持ち光の変化を捉えて反応するタイプのスレーブユニットが良い。だが、残念なことに国内でそうした製品を見たことはない。
さて1996年に発売開始されたFireflyという英国製のスレーブユニットが電池内蔵されており、公称で500m離れていても赤外線光に反応するということは発売当初から知っていた。しかし、値段は8千円から1万円と高価であるためにずっと購入に踏み切れずにいた。
そしてやっと2年ほど前に、ファイアフライを購入した。開いて見ると、このユニットは内部にはボタン電池3個が内蔵されていた。電池内臓であるが、オンオフスイッチはなく、常にオンの状態である。しかし、2年ほどは電池が持つので信頼性の点からスイッチがないほうが安心できる。実際に洞窟で何度も使用したが、値段だけの満足感は得ることができるし、これまでのところ故障知らずである。
このユニットを使うと、遠く離れていても、石柱の完全に陰になる場所にストロボを配置しても動作するので、心に描いた通りの写真撮影が行える。問題点は、観光洞や複数の人が同時に撮影をしている時、自分の意思とは裏腹にどんどんストロボが発光してしまうことである。100m離れた場所のストロボ光に容易に反応してしまうため、人の多い観光洞で使用することは大変難しい。
さて、このファイアフライにも欠点がある。最近のデジタルカメラ、特にコンパクトカメラにおいては露出やピントを合わせるために本番撮影の直前、1秒に満たない間に弱いストロボ光を発光させる。いわゆるプレ発光というものであるが、ファイアフライはこのプレ発光に反応してしまう。最近デジカメ用にGN10-20の補助スレーブストロボが売られているが、これらには、プレ発光を無視し、2度目の発光で反応するモードが設けられている。
そんな訳で、このファイアフライの欠点を解消した新たなスイスフラッシュというスレーブユニットが売られているのを先月見たので、即発注してしまっていた。それが昨日届いていた。
大きさはファイアフライを少し厚く小さくした感じで、価格はファイアフライよりも更に高価で1万円を超える。写真は筐体をあけたところであるが、中にDIPスイッチが見える。このスイッチを調整することによって、最初の発光で反応するのか、2度目の発光でなのかなど1-5回の間で自由に設定することができ、また反応してストロボを発光させるまでの反応速度も設定できるという優れものである。しかしながら、ドライバーを使って筐体を開けなければこれらの設定ができないのは残念である。まあ、泥だらけの洞窟内でDIPスイッチをいじるのは致命的な行為なので仕方のないところかもしれない。一応、スレーブユニットのオンオフに割り当てられたDIPスイッチは筐体を閉めても操作できるよう小窓はあいている。ただし、ヘアピンのような細長いピンがないと操作はできない。
そういうわけなので、洞窟の中で自由に反応するまでの回数を調整することはできないが、ファイアフライにない反応回数の選択ができるようになったということは、コンパクトカメラでの撮影には非常に有意義なことである。
なお、スイスフラッシュの感度は、ファイアフライと同程度かややや弱いぐらいな感じであった。
ところで、ファイアフライ。1996年から販売されている割には、私の周辺で洞窟写真を撮影している人に知られていなかったというのは、驚きであった。
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