2008年11月11日 (火)

洞窟救助講習

R0019864  10月の3連休に洞窟外で、洞窟救助講習を受けてきた。これは今年9月にフランスで行われた国際洞窟救助トレーニングを受講してきた4人が、その内容を他の人に伝えることを目的としたもので、学会内に設置された、洞窟救助委員会の主催で行われた。

R0019878  講習内容としては、10年前に私が受けたフランスでの国際洞窟救助トレーニングと基本的なところで大きく変わるものではなかったが、細かなところの差異は結構あった。

 流動分散で使用するノットの種類がダブルフィッシャーマンからオーバーハンドノットに変わったり、R0019896あまったロープを確保用に使用たりとか、Zリグよりもカウンターバランスやカウンターウェイトシステムを多用するようになったなどである。洞内での長時間待機用の簡易テントの作り方も代わり、より快適になっていた。

 やはり、日々と言うわけではないが、毎年のように技術は微妙に変更されたり、新しい器具が出ることで大きく変わったりしているので、R0019910定期的な技術導入は欠かせない。

 もちろん自分達で技術開発をして、問題ないかの強度やらなんやらのテストができるのが、最も望ましい姿ではあるが、人材も予算もない中ではなかなか難しい。R0019921実際に張力をかけたり衝撃をかけて、ロープやアンカーにどのくらいの力がかかるかを計ったりということは、設備やお金がなければ難しいので、結局はそうした能力のあるフランスなどからの技術導入に頼った方が、安価で安全である。

 幸いにして、R0019929そうした国際協力体制というものが国際洞窟学連合(Union International Speleology)や、その参加にある洞窟救助委員会を通じて情報交換などできる状況にある。


 
 

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2008年3月29日 (土)

阿哲台

R0018324  先日、私の所属する学会の中にある救助委員会主催で、阿哲台にて洞窟救助講習を行ってきた。参加者は地元の大学のクラブやそのOBから15人あまりと地元自治体の消防から10人などである。
 参加者や、救助委員会の持つ装備だけでは講習を行うことができない。残念ながら、救助委員会ではたいした装備を持っていない。これは予算面からの問題である。R0018328学会の乏しい予算からのお金は期待できないので、今回のような講習会を行うたびに最低限の必要経費に数千円をプラスした講習費を徴収し、余剰分を使って購 入したものだ。したがって、それほど多くのお金があるわけではないので10-20万円程度の装備しかまだ購入できていない。R0018332そんな訳で、私が個人的に所属している団体から、かなりの装備を提供してもらっての開催である。さすがに所属団体とは関係のない講習に対して、使用によって消耗する総額数十万以上の品々を無償で借りることはできないので、いくらかの謝礼というか講習のために購入した品の一部をお礼に渡している。

  本来ならば、理想的な救助講習を行うためには少なくとも200万程度の初期投資が必要で、その維持(ロープなどは消耗するし)などで年間50万程度は必要なのではないかと思う。その一方で、それだけのお金を集めても、維持管理し、運用するだけの人材がいるのかというと、かなり怪しい。R0018341_2そもそも事故が全国で年に1-2件しかおきない、ましてや担架を必要とする事故は数年に一度あるかどうかなのだから、それだけの投資に見合う価値があるのかどうかすらも怪しい。 まあ、それでもその投資の有無で、人の生死が決まることがあるかもしれないが、ない袖は振れない。個人的には強力な洞窟救助組織が必要だろうと思うけれど、道のりはまだ遠い。

R0018354 さて、講習であるが地元の公民館を好意で貸していただき、そこをベースに一日は口頭講演と隣の中学校の体育館を利用しての講習。体育館の中にロープを張ったりしながらである。しかし、体育館。土足は駄目なので靴下で歩き回っていたのだけど、やはり冷たい。大学の人たちは事前に体育館シューズを持ってくるようにと、お達しがあったそうで、皆快適そうだった。R0018365体育館の利用なんて10年以上ぶりだから、もうすっかりそういった配慮は失念していた。

 2日目と3日目は、近くの洞窟内での実習。SRTができる人がほとんどいないということで、横穴の段差部分での講習となる。消防の人は一応昇降ができる装備もあるしということで、10mほどのピッチを二つ持つ穴へ行く。R0018381しかし、実際は全員分の装備が無いことや、装備を揃えたばかりということもあって、昇降にはずいぶんてこずったようである。 ラダーを用意しておいた方が良かったかもしれない。11mmロープを二本束ねれればゴボウで登れるらしいし。

R0018429 私は大学生が訓練していた横穴に二日とも行っていたのだけれど、やはり1回生、2回生は経験が少ないこともあって、何をしたらいいのか、何をすべきなのか、何をしているのかなどの理解度は低いように見えた。特に、ロープを使う部分ではかなりである。 けれども、横穴でロープを使わない担架搬送に関しては、初日の最初の状況からくらべると、2日目は段違いに上達し、連携も取れるようになっていた。R0018449やはり、単純な担架搬送一つでも訓練経験のあるなしの差は、リアルレスキュー時に大きな差になって現れるのではないかと思う。ついでに言えば、怪我をして担架に収容されると、視界が制限され周りが何をしているのかわからなくなってしまうが、こうした訓練に参加していると、自分が今どのような状態になっているのか想像できるので、不安感が減じられるのではないかと思う。

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2008年1月11日 (金)

行方不明

 先日の日記にも書いたが、洞窟内の湖で泳いでいる間に行方不明、捜索打ち切りとの報が流れている。非常に残念なことである。

 過去に会っているたらしいことが判ったので、その時の写真を見返してみると、確かこの人だったかな、たぶんそうかな、そうに違いないかもという人が写っているし、やはり会っているのだろう。参加者名簿にも名前が載っていたし。

 捜索打ち切りについては、深いプールでの行方不明の捜索は極めて困難であるので、仕方がないところなのだろう。

 洞窟探検家によるケイビング中の、死亡・行方不明の事故は久しぶりである。30年ぶりぐらいになるのだろうか。過去に起きた洞窟探検家による死亡事故はすべて水がらみであったように思う。ケイブダイビング中かプールを泳いでいる最中の溺れかである。

 非ケイバーによる死亡事故はケイバーによる事故原因と、さらに井戸状の竪穴への転落死が加わっている。柵を越えて覗き込んで転落というものもある。竪穴の縁に確保なしで近づくのは非常に怖い。無論、縁の形状にもよるんだけれども。

 ちなみに怪我などの場合の事故原因の分布はだいぶ事情は異なってくる。水がらみで生存はあまりないしね。

 今回の事故においては、日本にいなかったこともあるし、事故関係者からの救助要請がなかったので、静観していた。静観しかできなかったというべきか。

 こうした時、要請もないのに現地に赴いたり、救助本部と思われる人に、皆がばらばらと連絡を試みようとすれば、現場はさらに混乱してしまうので、基本的にはいつでも連絡が取れる状態にしておくということぐらいしかできないからだ。
 ただ、仮に要請があったとしてもやれることは限られていただろう。そもそも、この程度の穴の地底湖まで行く(地底湖に入らない前提)のは、私にとっては簡単なことであるし、ケイビング経験が10年近くあるようなケイバーにとっては、けっして難しいところではない。したがって救助費用負担のことを考えれば、遠くからではなく、近県のケイバーを呼び寄せるのが正しい判断であったと思う。現場での様子を知らないので憶測でしかないが。

 というようなわけで、今回は蚊帳の外で、現地の情報も何も断片的にしか伝わって来ないという状況になってしまった。けれども、救助要請の連絡や人の動きなどについての情報は、将来起きるかもしれない事故の対応の助けとなるので、ぜひ、報告書をしっかり出して欲しいと思っている。

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2007年11月 2日 (金)

多賀洞窟救助講習2

 10月の3連休に救助講習を行った話の続き。

Tg_0002  連休2日目は、洞窟内での救助訓練を行った。ただ、前日の屋外講習にて、予定されていた講習内容を全員が終了しなかったため、半数程度の人は引き続き、屋外講習を午前中に行い、午後から入洞となった。
 Tg_0005洞窟内では、いわゆる石切り場下の河内風穴新洞部の主洞部に出たところから、洞口まで担架を運び出すということを訓練内容として設定し、実技訓練をおこなった。
 44人の人員を8-9人ずつほど5班に分け、洞窟内の各所で担架搬送ルートを作成してもらった。Tg_0007観光洞に通じる部分については、観光洞営業終了後の作業となるため、その部分についての班は作成せず、奥の班が終了したあとに行うこととしていた。
 石切り場付近は、高低差の大きな部分、といっても20mほどであるが、その区間にチムニークライムを行う箇所など段差やピットがいくつかある。そのため、この区間ではロープによるホーリングと搬送者が必要となり、作業を行うにもハーネスやSRT技術が必要となる。Tg_0009 今回の参加者のうち、ハーネスを持つ人は半数以下であったので、そうした人がこの区間の2班に集中的に配置した。
 ここの最初の区間では8mほど垂直に持ち上げたあと、6mほど竪穴に続く斜面を引きげた後、さらに2mの段差を持ち上げるリギングが行われた。次の区間では6mほどの狭いピットを垂直に引き上げ、横穴に移動後、Tg_0011転落する可能性のある他のピットの上を確保を取りながら渡り、さらに短いチロリアン・ブリッジに担架を載せ、3mほど降ろすリギングが行われた。
 この先は大ホールの区間に続くのだが、途中は狭く曲がりくねっていて、どうしても一箇所だけ、担架が人を乗せたままでは通せない場所がある。そこは今回の訓練では省略した。実際のレスキューがあれば障害物となっている1mX60cmX40cmほどかの落盤礫を破壊して取り除かなければならないだろう。

Tg_0001_2 大ホールの区間は基本的に横穴で多少の段差はあるという感じだ。 ただし、大きな岩が転がる落盤帯で足場はあまり良くなく、移動に時間がかかるし、上下動なども激しく患者に負担がかかるということで、チロリアンブリッジによる搬送を考えた。
 急傾斜の区間ではスロープチロリアンとなって、うまく運べたようだけれども、水平の区間では30-50mほどのチロリアンを張ったことと、末端同士の連絡がうまくいかなかったためか、担架の揺れが激しくなってしまったようだ。 Tg_0003 その場にいなかったので、又聞きではあるけれども。こうした声で連絡しにくいけど、見通しがある場所では、特定小電力無線が役に立ちそうだ。同じ班の中での連絡用に用意することも考えるのも良いかもしれない。山狩り用などで、持っている人も多いのだから。
 Tg_0016 大ホールから先は、狭い通路を通す区間となる。普段人が出入りしている通路は、あまりに狭いし、途中で直角に曲がるため、搬出には適していない。そこで、普段使わぬ別ルートからの搬出となるが、狭さは幾分緩和し、直線状となるものの最後が3mほどの壁の途中に出るため、そこをおろす必要がある。
Tg_0019  そして最後が、観光洞へのルートだ。通常は狭い落盤の隙間を抜けるが、担架は通らない。そこで、観光洞へ降りることのできる竪穴を通じて降下させることなる。竪穴は最初は6mほど斜めにクラックの隙間を降り、その先から10mあまり垂直に降りるルートなので、最初はスロープチロリアン沿いに降ろし、その後垂直に降ろすこととなる。

 Tg_0021訓練を開始したのは10時過ぎで、洞窟内でのリギングが終了し、実際に担架搬送を行い始めたのは14時半から16時半ごろである。現場まで30分ほどかかるので、実際には4-6時間ほどかかっている。 これを早いと見るか、遅いと見るかであるが、実際のレスキュー時には遅いとするべきだろう。ただ、今回は訓練で、初めて実際の洞窟内での救助活動を行った人も多かったことを考えれば、かなりうまくいっていると思う。2度、3度と訓練を重ねていくほど、速やかに搬出ルートの設定と担架の動かし方などが設定できるようになるので、もっと早くできるようになるだろう。

 今回の課題は、担架に乗る人の保護である。予算不足で買わなかったバイザー付のヘルメットはやはりなんとしても用意しなければならないだろう。また担架に乗る人は、適時交代していたので問題は大きくなかったが、保温用の資機材も必要となるはずである。誰かの化繊の寝袋を破いて使用する手段はあるものの、やはり専用品がほしいところだ。 

 

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2007年10月27日 (土)

翻訳

 先日、紹介した洞窟救助者マニュアル の翻訳を進めている。以前の版はすべて翻訳されているが、新しいマニュアルのほうはこれからである。
 内容が、ずいぶん増えているので翻訳には手間がかかりそうだけれど、翻訳を手伝ってくれる人も多くなりそうな気配があるので、いくらか楽になりそうである。

 この本は、原文がフランス語で、それを英語に翻訳したものなのだが、そのせいかどうか、英文がすっきりしていて訳しやすい。それでもいくらか意味を取りにくいものがあるけれど、過去に訳したことのある、ケイビングの技術本の中ではダントツに訳しやすい気がする。

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2007年10月14日 (日)

多賀洞窟救助講習

Tga_0006 先週の3連休は、滋賀県の多賀町で洞窟救助講習を行ってきた。講師役含め45名の参加があり、大盛況であった。その分、用意すべき装備も増えたりと(2日目の洞窟内講習では装備はやや不足していた)、大変になるのだけれど、洞窟救助に興味を持つ人が増えるのは良いことだ。
Tga_0004 この講習は日本洞窟学会、洞窟救助委員会が実施する形式をとり、協力者として多賀町・多賀町教育委員会・多賀町観光協会・河内観光協会にバックアップをお願いした。そのため、各種施設や観光洞の使用にあたって多大な便宜を図っていただいた。おかげで宿泊費や入洞料金などを削減することができ、参加の多かった学生ケイバーの助けになったと思う。
Tga_0001  講習参加費は、装備費や資料代その他で各自4000円(私自身など講師役も含めて支払い)でお願いした。講師謝礼を払うどころか、講師から金を取るというのは心苦しいものの、講師自身の訓練になるということと、講習に必要な装備が足りない状況では止むを得ない。救助委員会で充分な装備を持っていれば良いのだが、予算不足の折、なかなかそうも行かず、参加ケイビングクラブから借りた装備では、どうしても不足する部分を買い足したからだ。Tga_0003ロープやギアなど14万円ほどを購入し、 他に保険代、コピー代や米などの費用を除いた残金はば1000円ほどと、熟慮無しに支出した割にはうまくいった。

 講習は、一日目は洞窟外の岩場や河原での基礎講習、2日目は洞窟内での実習、3日目は装備洗いなど撤収日で計画した。

 初日は、多賀町にある八畳岩という場所近くの河原で行った。ここは丁度、川が伏流する地点で平時は水も無く訓練がやりやすい。

Tga_0005  講習内容としては、ロープの結び方、洞窟救助に必要な強度を持つ支点の作り方から始まり、引き上げ(Z-rig)、引き降ろしシステムの作成、それらシステム間の交互切り替えやノットの通過、担架の運用方法、チロリアンブリッジの作成と、チロリアンへの担架積載方法、カウンターウェイトなどと幅広い。

 同時に3-4箇所で異なる講習を実施し、参加者は適時それら講習を移動して受講する形を取ったが、ロープの結び方から入った人たちの半数ほどは、講習順の問題や人数過多などで、結局すべて受講することができないまま終ってしまった。そのため、翌日の午前中も一部の講習を実施することとなった。

Tga_0002  夜は入浴の後、各自で夕食。一応、大量のご飯とソーセージやチキン、日本酒などは予算で購入したり差し入れがあったりと、内容に拘らなければ腹を満たすことができたのだろうが、やはり満たせないと判断した人も多かったようだ。食事つきの講習も過去にはやったことがあるのだが、その時は講習費免除の代わりに食事当番をするというコック兼受講者をお願いしたのだが、その人は中途半端な講習となりがちになってしまう問題が生じる。どうしたものか・・・・。

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2007年9月15日 (土)

洞窟救助技術

 10月に滋賀県で洞窟救助講習を行う予定だ。今年になってからは、岩手、山口で行われており、この滋賀で3度目となる。岩手での講習は同じ月にハンガリーに行く予定が入っていたこともあり、関わることはできなかったが、それでも年に2回は過去に比べるとハイペースである。また現在、岡山県のある消防関係からも、洞窟救助講習に関する問い合わせが来ている。

 私が洞窟救助講習で教えている技術は、フランスの洞窟救助組織SSF(Speleo Secours Francis)の技術である。SSFについてはやや古いがフランスの洞窟レスキュー体制についてのページ、SSFが2年ごとに外国人向けに行う国際洞窟救助訓練「Stage Secours International 」についての報告がいずれも日本洞窟学会洞窟救助委員会のページ内に日本語で記載されている。

Logossf2p さて、消防や山岳、リバーレスキューで知られるRESCU3とSSFの技術の違いは何であろうか。私も消防などのロープレスキュー技術をすべて把握しているわけではないので、はっきりしたことは言えないけれども、SSFの技術は洞窟やキャニオンでの救助に特化していると感じられる。使用するロープは10mm、国によっては11mmを使うこともあるが、いずれにしても普段のケイビングにおいて使用している太さのロープである。これは、洞窟救助用にあえて特別の装備を用意せず、普段から使っている装備を使用したり他団体から借り出すなどで、用意にすばやく調達が可能となるし、アセンダーやディセンダー、カラビナなども特別なものを用意しなくても良い。

Entranceliftrig  無論、12mmやハーフインチのロープに比べれば強度は劣るけれども、リバーレスキューほど多大な力がかかることはないし、岩とロープが接触して切断されるということも考えにくい。ケイバーが普段から使っているSRTと呼ばれるロープ上を昇降する技術では、岩とロープの危険な接触を積極的に避ける技術を用いていて、これが洞窟救助の際にも同様に適用されているからだ。具体的にはディヴィエイション(deviation;進路変更)やリビレイ(Rebelay;再固定)といった技術であるが、レスキューの際にはさらにヒューマン・ディヴィエイション(人による進路変更)も積極的に用いられる。

Entranceliftrig2 チロリアンブリッジ(ハイライン、展張ロープ)についても、バックアップラインを設けるか、設けないかという差があると思われる。SSFの技術では基本的に設けない。ロープの強度に対して、救助時にかかる力は十分に小さいことは、SSFがPetzlの協力を得て張力計を用いたテストなどで確認されている。ただし、適切な力でチロリアンブリッジが作成されていればの話しだが、適切な力以上で張るのは実際のところ、なかなか難しい。また洞窟内では壊れにくい、良質(というのか?)のアンカー(支点)を必要な場所に得やすいという利点も大きいだろう。

 

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2007年9月14日 (金)

秋吉台レスキューコース

Aki0_0001  秋吉台ケイビング集会でのレスキューコース2日目は、近くの規模の大きな洞窟である。規模の大きな通路があり人がたくさん出入りしやすい穴であるが、総延長が短いこともあって、あまりケイビングをして楽しい穴というわけではない。が、それだけにレスキューの練習には良い。
 朝7時半に班別ミーティングで8時出発という予定であったので、6時には起きて、いろいろ用意を済ませだらだらする。そして時間通りに始まったが、8時の出発は叶わず結局8時半ぐらいの出発になってしまった。
Aki0_0002  そして途中コンビニによる車と直行の車と別れ私はコンビニで昼飯を買った。昼ごはん用に全員に供給された昼飯は朝飯として消費してしまったからだ。そのあと、穴の近くの車を止める場所に向かうと、コンビニに寄らず先行した車4台のうち1台しかいない? なぜと思うと、しばらくしてやってきた。どうも別の洞窟に向かってしまったらしい。

 で、結局洞窟に着いたのは10時ごろとなった。洞口で一休みした後、洞窟内のベースになるところまで移動し、運んだ装備を広げる。が、ここで用意したロープ5本のうち3本しかないことが発覚。Aki0_0003どうもタックルバック一つを忘れたらしい。何処に忘れたのか考えてみるが、まったく思い浮かばない。昨日、屋上で用意し、そのまま車に積んで来たのだから無くなりようがないのだが、無い物はしかたがない。あるもので、講習を行うようやりくりをした。
 ちなみに、この無くなったタックルバック。帰りに洞口を通るときに置き忘れられていたのが発見された。洞口まで運んでくれた人。なぜ、中まで持っていってくれなかったのだろう。

Aki0_0004  参加者を3つの班に分け、3箇所でのレスキュー用リギングを行ってもらうことにした。一つは段差をスロープチロリアンブリッジで乗り越えるところ、一つは 3mほどの段差を引き上げて乗り越えるところ、最後の一箇所は傾斜40度ほどの斜面を確保をとりながら引き上げるところという感じだ。10年前にレスキュー訓練を行っている場所なので、リギングにはそう時間がかからない。1時間あまりで準備が終わり、担架に人を乗せて運搬訓練を始めた。担架は博物館に常備してある米国製のSKED担架を使用した。しかし、水平釣り用等のオプションのない一番ベーシックな担架セットであったため、テープなどで代用品を作成し使ったが、やや使いにくかったようだ。専用品のほうが良い。この担架はゴルフバックをやや小さくした大きさで運搬できるので、事故現場への持ち込みは早く、担架としてもコンパクトで柔軟性があるので狭洞部の通過がやりやすい。しかし、それは負傷者にしてみるとあまり優しくないし、負傷者を担架で包み込むだけで内部で固定されないため、垂直に吊り上げた場合は特に苦しいという特徴がある。

Aki0_0005  さすがに最初の訓練では、担架搬送の際の担架の動きや人の動きがよく判らず、うまくいかない場面も多かったが、班の配置換えをし、リギングしなおした後の2度目の担架搬送では人の動きもよくなり、搬送にかかる時間も短縮された。

 やはり、一度訓練した経験があるだけでも実際の洞窟救助事案に遭遇したときの動きは変わってくると思う。それだけに、横穴搬送だけでも一度は経験しておくのが望ましいのだろうと思った。

Aki0_0006  訓練は2回繰り返し15時前に終わり、装備撤収を行い下山して、着替え博物館に戻ると、ちょうど16時の閉会式10分前ぐらいであった。閉会式を終え、使った装備の整理をしたあと博物館を後にした。

 帰りの飛行機は国際線機材が使われており、事前座席指定で国際線ビジネスクラスの無償開放席と空港で夕食に飲んだビールのおかげで、ぐっすり寝て帰ることができた。こういう機会はなかなか無いけれど、スーパーシートのように追加料金がいらないので運良くあたるとうれしい。座席が良いだけで、サービスは何も変わらないのだけれども寝不足で疲れている体には優しかった。

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2007年9月 4日 (火)

秋吉台ケイビング集会

 昨年の秋吉台ケイビング集会では、お気楽なファンケイビングをしていたのだが、今年はお仕事が待っていた。

 7月始めに私用で山口を訪れた際に、集会でレスキュー講習をやってくれないかと打診されOKしていたからだ。ボランティアなので講師代はもちろんでないし、講習参加費も無償である。いや集会の参加費(ほとんどは懇親会費だろう)が2500円かかる。

 どのくらい人が来るかと思っていたら、自分を含め25人の参加者と今回のケイビング集会での一番大きな班となってしまう。ひとりで講習はできないので前日の竪穴組みの社会人4名にも講習補助をお願いしていたので、実質、講習を受ける人は20人ということになる。
 参加者のうち6名が地元の消防の方で、驚くことに公務で来ていた。過去何度も洞窟救助講習をしてきた際、消防士の方が参加したことは何度かあったが、みな休日を利用して来ていた。さすがに博物館が絡んだ企画ともなると、信用度が違うのだろう。
 残りの大半は中四国の学生さんで、他に博物館関係の方が2名であった。

Aki_0001 ケイビング集会自体の参加者は120名ぐらいと過去最大規模のようで、懇親会ですら100人の参加とのことだった。開会式のあと、ラダー講習班や、洞窟学班など複数のコースに別れ活動が始まる。レスキューコースは最初にパワーポイントでのレクチャーを行った。
 内容はというと、まず洞窟救助に必要な技術などについてと世界の洞窟救助についての現状である。これは5月に参加した国際洞窟救助会議でのプレゼンを拝借して行った。その次は日本の洞窟救助の統計や、洞窟救助の特質、現在の問題などについてである。

 今のところ、日本の難しい洞窟で深刻な事故が起きた際、救助を迅速に行うことは不可能だ。交通アクセスが悪いところ、超狭洞部が続く穴、狭く長い穴は特に問題があるので、そうした場所では絶対に事故を起こさないということしか解決策は無いだろう。

 プロジェクターでのレクチャーは10時から11時ごろの1時間ほどで終わり、1時間の休憩後、12時から16時ごろまでの予定で、実技講習を行った。

Aki_0002 こちらは博物館の屋上や周辺で、基本的なロープワーク(アンカーの作成方や引き上げシステムなど)担架の扱い方、通路拡大の方法、チロリアンブリッジの取り扱いなどを行ったが、過去の経験からして丸一日で終わらない内容なので、かなり省略している。実際のレスキューで必要不可欠なテクニックについて説明していない部分が出てしまったが、2日間の昼間だけという時間の制限では仕方が無い。したがって今回はケイブ・レスキューとはどのようなものかを参加者に理解してらえれば良いというスタンスにした。
 ちなみに、きっちり教えるのであれば、最低でも3-4日は必要だ。それもSRTができるという前提での話である。私の教える救助技術はフランスの洞窟救助組織(SSF)が採用しているもので、10mmのスタティックロープと、プーリー、アセンダー、ディセンダーなど、普段ケイビングで使用している機材を多く使用する。欧州の多くの国の洞窟救助組織で採用されている。洞窟以外の救助隊では12mm以上の太いスタティックロープを使っていることが多いようだが、10mmでも十分な強度を得ることができる。ただし、それには岩などとロープの接触を100%避けるなど、いくらかの条件があるので、注意が必要だ。もっともそんなことは、アルパインスタイルのSRTをやっていれば、そう難しいことではない。

  そんなこんなで、参加者を二班に分け、交代でいろいろ教えていったが、さすがに前日の疲れが出てきて15時過ぎには気力が萎えてきてしまった。1-2週間前までのうだるような暑さはなくなっていたけれど、日が差すとかなり熱く、体力を消耗する。結局、16時の予定を少し切り上げて終了となった。

 講習の後は、明日の洞窟内活動に備えて装備を1時間ほどかけて、選択準備してから風呂に行った。もちろん、ロイヤルホテル。露天風呂のあるトロン温泉も捨てがたいが、車で20分ぐらいかかるので選択外である。

 午後6時半から総会が始まり、19時から懇親会。懇親会の始まる直前にいきなり、乾杯の音頭を頼まれてしまったのには、まいったがまあ、懇親会では楽しく飲めた。普段なかなか話せない人達と話せるのが良い。懇親会は2時間で終わったが、その後も屋外で宴会は続くも、疲労蓄積のため24時頃には眠りについた。

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2007年8月10日 (金)

洞窟救助活動に関する採択文書

 5月の話になるが、ハンガリーで行われた11回国際洞窟学連合の洞窟救助会議において、とある宣言というか、文書が採択された。原文は英語、フランス語、スペイン語で併記されているのだが、さすがにそれを読めというのも、難しいだろうということで知人に頼んで訳してもらったものを転記する。今ひとつ原文の意味を伝え切れていないかもしれないけど、そこはご容赦を。

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11回国際洞窟学連合の洞窟救助会議に出席した24カ国の代表は、洞窟救助の実施に関するいくらかの基本原則を支持します。

1.経験あるケイバーだけが洞窟救助チームを作るべきである。独特な洞窟の環境では、地下で活動する救助者が皆経験あるケイバーであることが求められる。

2.洞窟救助チームは公的業務を行う。その身分はすべての安全に対する責任を有する。ケイバーも、非ケイバーも救助される。

3.政府は救助の実施に対して最も基本的に責任がある。洞窟救助組織は確かな技術を提供できる。公式であれ非公式であれ政府が組織と協定を結び、可能な間接的経済支援をすることは、洞窟救助事業において同値の対策をすすめることになる。

4.事故や事件の場合、一般的に援助は無料である。洞窟救助の経費は政府が負担するべきだ。

5.洞窟救助者は市民として税金を払う義務がある。救助チームのメンバーとしては特別訓練に参加し、しばしば救助に自分の装備を供給しなければならない。我々には2度払っているように感じられる。我々は救助や保険のために3度目の支払いをすべきでない。

6.洞窟救助はボランティアによって行われるので、経費は比較的安い。すべての国で洞窟事故は比較的少なく、有給のプロ洞窟救助者を備えておくことは費用がかかりすぎる。

7.ケイバーが開発した技術は、他の救助事業と情報を共有されてきた。洞窟救助技術の訓練はケイバーによって行われている。

8.洞窟救助技術は、科学的試験やケイバーの実地経験を通して開発され、安全を証明されてきた。産業界に適用される法は、洞窟救助作業の実施において適合性は不要である。

9.私達は、科学的調査、探検、観光産業、教育、そして救助業務を含むケイビングに対する、いかなる政府の支援をも幸甚に存じます。

2007518日 アッグテレクにて

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  と、こんな内容なのだけれど、どうでしょう。いろいろ考えさせられる内容である。この文書に書かれた内容に沿った洞窟救助組織が作れればと思うが、日本のケイバー・ケイビングの状況、社会体制や法律、慣習などからすると難しいのかもしれない。

 ところで、スタティックロープを使用したロープレスキュー技術を、私や私の友人たちが導入し始めたのは1992年である。最初は米国の洞窟救助技術導入を行い、その後1997年にフランスの洞窟救助技術に切り替えた。それなりに訓練を行い、装備の蓄積も行っている。けれど人材不足、資金不足により、採択文書にあるような洞窟救助チームを作るには至っていない。ただし、人集めと装備集めのために1-2日のタイムラグと人材不足と通信機器などの不足による救助活動のいくらかの遅れを許容できるのであれば、日本にある、どのような鍾乳洞からでも人を助け出す能力があるとは自負できる。けれど、それでは足折って歩けないような軽症ならいいけど、重大な事故の場合、手遅れになりかねないんだよね。

 あと、 一応原文を転記しておきます。翻訳、この方が良いという助言を歓迎します。ちなみに原文。フランス語が最初に作られ、英語、スペイン語にトランスレートされました。ネイティブスピーカー同士の間でも、表現がこうすべきだ、こっちが良いとかけんけんがくがくしながら決めていたのが、印象的だった。僅かな英語とフランス語の僅かな単語しか知らぬ私には討論に参入する余地は・・・・なかった。

 ちなみに冒頭の一文、24カ国の代表云々の文をフランス語からも訳してみたら、英語から訳したものより、適切な訳になったような気がした。どちらが正しいのか、スペイン語も訳してみたいところだが、スペイン語は辞書を持っていない。

The representives of the 24 countries present at the 11th UIS Conference of Cave Rescue support certain basic recommendations concerning cave rescue operations.
Les representants des 24 pays rassembles lors de la 11 Conference de la Commission Speleo Secours de l'UIS affirment quelques principes fondamentaux pour leurs actions de secours:
Los representantes de 24 paises venidos a la 11 Conferencia de la Comision de Espeleorescate de l'UIS estamos de acuerdo sobre algunos principios basicos de los actos de rescate:

1. Only experienced cavers should create cave rescue teams. The specific cave environment requires that all underground rescuers are experienced cavers.
Seuls les speleologues experimentes se forment et s'entrainent pour composer les equipes de secours. La particularite des grottes et gouffres oblige tous sauveteurs a etre en premier lieu: speleologues.
Solamente los espeleologos con experiencia deben formar equipos de rescate. El ambiente especifico de las cuevas requiere que todos los rescatadores bajo tierra sean espeleologos experimentados.

2. Cave Rescue teams perform a public service. The state has the responsibility for the safety of all. Both cavers and non-cavers will be rescued.
Le Secours Speleo est d'utilite publique. La securite des citoyens est la premiere mission des Etats. Les secours souterrains concernent des speleos et des non-speleos.
El espeleorescate esta de utilidad publica porque constatamos que todas las victimas no son espeleologos. La seguridad de los cuidadanos es la primera mision de los Estados.

3. The governments have the primary responsibility to provide the means for rescue operations. Cave rescue organisations can offer the appropriate skills. Agreement, either formal or informal, between government and organisations, and the possible consequential financial support should promote the equal provision of a cave rescue service.
Les Etats organisent les moyens de secours. Avec les organisations de secours des speleologues, les Etats disposent des competences appropriees. Un agrement et une aide financiere sont des moyens de reconnaissance indispensables.
Los Estados organisan los medios de rescate. Con las organisaciones de rescate de los
espeleologos, los Estados disponen de las competencias apropriadas. Un acuerdo u una ayuda economica son un reconocimiento indispendsable.

4. In case of an incident or accident, assistance in general is free. Cave rescue costs could also be borne by the state.
Pour conserver l'egalite des citoyens face au secours, le secours est gratuit. Les frais des operations de secours speleo doivent etre egalement pris en charge par les Etats
Para observar la egalidad de los cuidadanos para el rescate, el rescate esta gratuito. Debe seguir estando gratuito en caso de los accidentes en cuevas.

5. Cave rescuers as citizens have a duty to pay their taxes. As a member of rescue teams they must attend specialised training and often have to supply their own equipment for rescue. We feel that having paid twice we should not pay a third time for rescue or for insurance cover.
Les speleologues sauveteurs, comme tous les citoyens, participent a l'organisation et aux
financement des secours par l'impot; ils participent egalement par leurs entrainements et l'achat de leur materiel. Ils paient deja 2 fois et ne veulent pas payer une troisieme fois, meme par le biais des assurances.

Los rescatistas, como todos los ciudadanos, participan en la organisacion y en los gastos del rescate con los impuestos; participan igualmente con su entrenamiento y la compra de su material. Como ya pagaron 2 veces, no quieren pagar una tercera vez, aun que sea por medio de un seguro.

6. Because cave rescue is carried out by volunteers the costs are relatively low. In all countries cave accidents are relatively few, so providing paid professional cave rescuers is far too expensive.
Les frais de secours speleo sont peu onereux grace au volontariat des speleologues. Dans chaque pays les secours speleos sont rares et la formation de professionnels ne serait pas rentable.
Los gastos del espeleorescate no estan muy altos gracias a la actividad voluntaria de los
espeleologos. En cada pais los actos de rescate no estan muy frecuentes y la formacion de los profesionales no seria economicamente justificada.

7. Cavers have developed techniques that have been shared with other rescue services. The training of these cave rescue techniques has been carried out by cavers.
Les speleologues assurent souvent la formation des professionnels et leurs techniques sont reprises dans de nombreuses situations.
Los espeleologos se encargan muy seguido de la formacion de los profesionales y sus tecnicas se utilisan en varias situaciones.

8. The cave rescue techniques have been developed and proven safe through scientific testing and practical experience carried out by cavers. Legislation applicable to the industrial environment is not necessarily compatible with the practice of cave rescue operations.
Les techniques de secours et de cordes ont fait l'objet d'etudes importantes par les speleologues et ont demontre leur efficacite. Les differentes normes sur le materiel imposees dans le cadre professionnel ne sont pas toujours compatibles avec la pratique speleo et ne doivent pas nous etre imposees.
Las tecnicas de rescate y de cuerdas han sido objeto de estudios importantes por los
espeleologos y han mostrado su eficacidad. Las diversas normas que estan obligatorias para el equipo usado profesionalmente no siempre estan compatibles con la practica espeleo y no deben estar imposadas a los espeleologos.

9. We greatly appreciate any support provided by governments for caving purposes including scientific research, exploration, tourism, education and rescue.
Nous remercions les Etats de prendre en consideration les activites des speleologues sous toutes leurs formes: recherches, decouvertes, tourisme, education, secours.
Agradecemos a los Estados de apoyar las actividades espeleologicas en todas sus formas: estudios scientificos, descubrimientos, turismo, educacion, rescate.

Aggtelek, 18th May 2007
Aggtelek, le 18 Mai 2007
Aggtelek, 18 de mayo 2007

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